六通目、Yuukaちゃんへ。
元気ですか。
やっと書いています。
けれども本当はさっき書いていたのだよ、でも電源から電気が送られなくなって
急に 全部消えてしまった。
消えてしまうんだねえ。そして 覚えていない。何を 書いたのか。
頭がぼんやりしている。このところ。
とても よくない。
手とペンとインクを使って手紙を書くと、消えない。
消したくても、残ってしまう。
ああ、ちがう、こういうことじゃないのに と 書き損じの紙を何度も破いて丸めながら やっとのことで、自分の体とぴったりした言葉に辿り着いて(そうじゃない時だってあるけれども)、封をして、送る。
そんなふうに捨てながら、本当を知る。
それが手紙を書くことだ と思っている。
じゃあこれはなんだろう。
なんだろうね。
ごめんね、どうも頭がぼんやりしている。
このところ 大きな波が体の奥で動き出していることを感じる。
そういう時 人の言葉が届きにくい。
言語を理解するのが難しくなる。
何が起きているのだろう
悪いことじゃないんだ。
ただ、何かが起きようとしている。
それがなんであるか わからないけれど
明日か明後日、また松本に行って来ます。
今度は大阪からお客さんをお招きするよ。PIKA☆ちゃんという、友だちが来る。
たくさんの友人が松本を目指してきてくれるね
うれしいことだ
夕海
6通目 夕海さんへ
五通目、Yuuka ちゃんへ
すっかり、お返事が遅くなってしまいました。ごめんよ・・・。
始めようと云い出したのは私なのに、Facebookだ、Twitterだ、と、浮気ばかりしていて、文通もブログも、果ては映画の制作も、途中で放り出しているという。
おかしな集中力と、焦りのせいです。とてもよくありません。
でも、私は私をすごく疑いつつ、割と信じているので
なんとかぐいっと取り戻してくれるはずだ(と自分に言ってる)と、気長に眺めています。今日のライブも、素敵に歌えるといいな。
さて。
松本への旅は、どうでしたか。
まさか本当に君、来るなんて!
あなた方のように若く、学校に通う友人達を見ていていつも思うことは、時間は常に流れ、永遠ではないという 当たり前のこと。
あなた方の体は刻一刻と成長し、たったひとつのきっかけで、大きく未来が変わりうる。自分の16歳を振り返った時それは確かにそうで、あの日。天草に行かなかったら、私は天草で映画なんか撮らなかったし、歌も歌っていない。そう思うと、君の思いつきはどうにか有意義なものにしたいと思いました。
ライブは一度だけでしたが、私達が一緒に作った『灯台ポスト』の歌は、やっぱりいろんな人に届く曲になったようですね。
あなたの時間には制限がありますが、どうか出来るだけ多くの人の元へ、歌いに行けますように。楽譜を作ったら、是非、周りのお友達と一緒に演奏をしてください。
自分の体を動かさなくても、歌を拡げていく知恵はあると
自分にもいつも思うんだ。
ああ たのしみだな!
ありがとう
5通目 夕海さんへ
こんばんは。
いかがお過ごしですか?
私の町にあなたがいたあの時間は、ふしぎでした。
私は、あの一週間ほどの間だけ、別の世界にいたような感覚です。
あなたと一緒にいると時間はあっという間に過ぎていて、気づけば数時間たっていた。
時間の流れがはやく感じた。
たくさんたくさん考えることがあったし、結構忙しかった。
でも、とても充実していて、楽しかった。
あなたが、東京に帰った次の日は学校だった。
そしたら、一気に現実に引き戻された。
前の日までがいつも以上に楽しかったからか、何か物足りなかった。
ちょっと、しょぼくれていました。
私はここ数日、自分の中で何かがグラグラしているような気がしています。
でも、その”何か”さえわからないし、どうしてなのかもわからないので、とりあえず、ほっといてみることにしました。
いつか、Yuukaも魔法が使えるようになれるかな?
魔法を感じてもらえるようになれるかな?
そうなりたいな。
四通目、Yuukaちゃんへ
あっという間に時間は過ぎるね。津奈木町から東京に戻って、もう四日も経ちました。もう疲れは取れましたか?
私は自分が物を作る時、傍らにいる人のこともつい、どんどん追い込んでしまうから、例えそれが普通の高校一年生である君のことすら、追い込んでしまったんじゃないかなあと思う。君が君としてあの町に生きていたら、そんな時間感覚で進まなくたってよかったはずなのに。
私はよく、「魔法」と言った。
「魔法を使うと、疲れる」と。
私の言う「魔法」が一体どういうものなのか、説明するのは難しいのだけれど、君にはどう映っていたのだろう。それは目に見えるものなんだろうか。
私は、本物の「魔法使い」になりたくて、長い時間修行を続けており、終わりがありません。大体においてちゃらんぽらんなので、ずっと落ちこぼれのまま、気付けばすっかり歳を重ねてしまいました。
私の周りにはそれはそれは素晴らしい本物の「魔法使い」さん達がいらっしゃって、私は幼い頃からその背を見、いつか自分もそうなりたいと願い、大人になりました。
それはけして表現者になるということじゃなく、「魔法使い」な漁師さんもいれば、「魔法使い」な保母さんもいます。だけどどの種類の魔法を選ぼうとも「どうやったら本物の魔法使いになれるのか?」という教科書はなくて、自分で探さなくちゃいけないから、大変なの。それは特別なものじゃない。みんな持ってる。
けれどその種はあまりに儚い上に育てるのは大変で、どんなに長い時間を掛けて身につけたとしても、ほんの一瞬で見失って、取り出せなく時もよくあります。そういうときは大抵、深呼吸を忘れているな。と、思います。
そして今
自分はとても頻繁に、魔法を見失ったり、取り戻したりを、
繰り返しているように感じています。
夕海
4通目 夕海さんへ
三通目、Yuukaちゃんへ
ごめん、先に三通目をもらってしまったね。ありがとう。
私は近頃、溜まった約束を果たすということをひとつずつやっているところです。今週は、ある小さな友だちとの一年越しの約束を果たしたくて、彼女の家に向かいました。
本当は急に用事が出来て、諦めようかと思っていたのだけれど、その約束は私にとってとても大事なものだったから、そっと訪ねていって、ハグをしました。
ちょうど彼女は小学校六年生で、この春を越えたら中学生になります。
その子の小学校は全校生徒が14人で、中学校は今1人しかいなくて、校舎が繋がっているから、卒業したからといって大きく風景が変わるわけではないのかもしれない。でも例えば私はあの頃、何かを決意して一歩進んだ記憶があったから。彼女にとってこの春は、どんな春なんだろうなあ、と思う。
明日は、津奈木町に向かうよ。君に会いにね。
たくさんお話しながら、曲を作ろう。
大急ぎで!
追伸:今週の水曜日は、自分の役割についてたくさん考えた一日でした。